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セルフライナーノーツ


椅子 前作「Lamp & Stool」からオリジナル・フルアルバムとしては5年ぶりの作品。そのあいだ、他の音楽の仕事が忙しく、隙間を見つけて曲を作ってはいたものの、なかなか候補曲が生まれなかった。悩んで考え込んでいるうちに、それまでの創作のクセが抜けた。それならばいっそ頭を空っぽにして、リファレンスとなるような理想をあえて掲げず、憧れを持たず、自分の根底にあるものだけを一滴ずつ抽出してみようと思った。
 
 コンセプトはMOR(中道)を行くバンドサウンド。今のHARCOバンドのサウンドがとても良いので。石本大介のギター、伊藤健太のベースが、アレンジにも一役買っている。ただしドラムは自宅スタジオですべて自分で叩いた。ピアノも自宅のアップライトピアノ。それとプラスアルファの装飾くらいで、ほとんどの曲は成り立っている。自宅録音だけど、バンドが鳴っている。


 久しぶりに言葉が気持ちよく旅をしているアルバムが作れたような気がする。好きな本を2〜3冊詰めて、小さめのトランクで、気ままに好きなところへ出かける気分で、曲を作る。おかげで一度は南極までたどりついた。歩調は軽やかに、でも急がない。気が付けば、歌い方も昔の感じに戻った。理想は喋るように歌うことだ。

 聴く人によっては空想に溢れているように聴こえるみたいだけど、巧みなサイドストーリーをもたない存在は味気ない。モノにもヒトにも景色にも、目の前にやってくるまでのいろんな経緯があって、彼ら自身にも想像力が宿っている。そのすべてを引き出してみたい。僕が出来るのは、音楽に変えることだけ。こうしてまたひとつ、作品が生み出せて良かった。



1 ゴマサバと夕顔と空心菜

2013年の後半に下北沢で4回マンスリーワンマンライブを行い、そのたびに新曲を2曲ずつ発表していた。これはそのうちの1曲。バンドメンバーを食材に見立ててライブのタイトルを考えることが多く、この曲もまずライブありきで、あとから曲と詩を書いていった。田舎の夏の情景を思い浮かべて。ギター石本大介くんのトロピカルなリフが印象的。このドラムの変則的なパターンもお気に入りだ。
2 カメラは嘘をつかない

ドラム・ベース・アコギ・ウーリッツァのみの、シンプルな編成。この頃ジョン・アップダイクをよく読んでいたので、とくに街の描き方は少し影響があるかも。この歌詞を書いているとき、ずっと旧山手通りの代官山付近が頭に浮かんでいた。カメラをぶら下げる人が多い街だけど、今はみんなスマホで撮ってしまうかな。中目黒の方へ、古道具屋のある曲がりくねった急な下り坂を下りる。その辺りがこの曲の「街の継ぎ目」。
3 口笛は春の雨

東京と大阪で開催した「HARCOの春フェス 2014」のアンコールセッションのために、キリンジを脱退したばかりの堀込泰行さん、大阪のシンガーソングライター杉瀬陽子さんと、僕の3人で共作した1曲。詞曲ともAメロが泰行さん、Bメロが杉瀬さん、サビが僕で、リレー形式で制作。冒頭の泰行さんの「ところがどういうわけか」というフレーズは、なかなか挑戦的だと思った(笑)。曲の完成がイベント間近の頃(4月下旬)で、当日は天気予報で雨になることが分かっていたので、このタイトルに。
4 つめたく冷やして

あがた森魚さんがエルビス・プレスリーの名曲「Don't Be Cruel」に独自の日本語詞を付けて1976年に発表した1曲。オリジナルの邦題「冷たくしないで」を「つめたく冷して」に変えるセンスが凄い。当時のアレンジは細野晴臣さんで、細野さん自身も後にカバーしている。僕も参加したあがたさんの生誕60周年ライブ(九段会館)でこの曲を聴いたときから、「ぼくはスイカ、とうさんビール」というフレーズがずっと忘れられず、今回カバーさせてもらうことに。
5 TIP KHAO

15年前にマリンバを主体としたインスト「マリンバ発表会」を作っていて、再び同じ形態にチャレンジ。ライブで一度だけ演奏したときには口笛のパートはまだ無く、レコーディングのときに付け足した。今回のジャケット撮影のために東南アジアのラオスを訪れたのだが、TIP KHAO(ティップ・カオ)とはラオスの主食であるカオ・ニャオというもち米を入れる、竹で編んだ容器の名前。
6 電話をかけたら

2014年の春頃に作り、ライブでは頻繁に演奏していた1曲。TOTOのGeorgy Porgyという曲を間奏でパロディとして挿入している。別れた恋人の電話番号をアドレス帳から消してもすっかり暗記してしまっていて、ついついかけてしまいそうになる、未練と戦う男の歌。
7 Snow on the Pasta

「Lamp&Stool」用に5、6年前に作っていた曲。パルメザンチーズのCMソングのつもりで作ってみた。
8 星に耳を澄ませば

4年くらい前、妹に2人目の子供が出来たときに作った曲。「赤ちゃんはひとりひとり、それぞれ違った星からやってくる」という、僕が小学生の頃に考えついた仮説がもとになっている。昨年10月に我が家にも第一子が生まれたので、レコーディングの合間に子供の声を録音して、冒頭に入れている。
9 南極大陸

これもだいぶ前に作った歌。ポストモダン小説のような妄想劇。南極の歌にバンジョーを入れるというのが、ちょっとした暴挙だけど、不思議と合っているような気がする。
10 I don't like

「ゴマサバ〜」同様、かつてのマンスリーライブで発表した曲。僕が好きなハーフタイムシャッフルのリズム。ピアノは、ライブのときはサポートで弾いてくれたシーナアキコさんのジャジーなフレーズを、産休中の彼女に代わって必死にコピーした。
11 閉店時間

テーマはトム・ウェイツの名盤「Closing Time」から。そのアルバムに入っているタイトル曲はインストなので、歌バージョンを作ろうと思った。閉店間際の本屋を見つけると、欲しい本もとくにないのに、なぜか駆け込んでしまう。店員さんに睨まれつつ聴く「蛍の光」。小人になって本棚の隙間を探検している僕がいる。



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